アウォンコンバン 아원공방
2025年7月、また素晴らしいお店と縁がつながりご紹介させていただくことになりました。
店の名は「アウォンコンバン」。
ピンと来られる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
40年以上にわたって上質で洗練された工芸品を販売し、圧倒的なセンスの良さで金属工芸の魅力を伝え続けるパイオニア的存在のショップです。
©아원공방
長い時間をかけて制作された燭台やモビール・花瓶…
伝統と現代が調和し奥ゆかしさの中に強さとあたたかさが息づき、気品があり、とても魅力的です。
最も固い素材を用い美しい曲線で表現された鳥や花、木や雲・月
冷たさなどまったく感じられず、むしろぬくもりを感じます。
『自然がいつも近くにあったから…』
幼い頃に育った環境が作品に大きく影響を受けたと作家ノ・イナさんの言葉です。
まずは、アウォンの歴史から紐解いていきましょう…
1983年
まだ金属工芸が人々の暮らしに馴染んでいない頃、アウォンコンバンは仁寺洞の2坪ほどの小さな店舗からスタートしました。なんとこちらのお店、ノ家の6人姉妹で運営されています。
はじまりは三女のイナさん…
幼い頃から絵を描いたりモノづくりが好きだったイナさんは故郷を遠く離れソウルで会社勤めをしていました。明洞大聖堂前の金属工芸の展示に立ち寄ったことが大きな転機となるのです。偶然見つけた銅の作品に心奪われ、金属工芸の道へ。文化センターで2か月ほど学んだだけでそこからが快進撃!制作に没頭する日々がスタートしました。
©아원공방
作品で家が溢れたころ、5歳離れた六女のインジョンさんに「売ってみる?」と持ち掛けたそうです。少しお金を稼いでみんなで故郷に戻ってまた一緒に暮らそうというささやかな願いを持ち、仁寺洞の小さな店を借りアウォンコンバンは始まりました。
始めは戸惑いの連続でしたがイナさんの美しい作品とインジョンさんのセンスの良いディスプレイとあたたかい接客、また仁寺洞の町に古書店や骨董品店・画廊が増え伝統と文化が共存する町として認知され国内外の観光客で賑わい活気を帯びたという時代背景も追い風となり、多くのメディアに取り上げられました。
私も今は廃刊になりましたが日本の雑誌「スッカラ」で知り、いつか訪れたいと憧れを持ったものです。
緑のテントが愛らしい仁寺洞の路地にあった小さなお店に念願叶い訪れた時はガラス越しに見える情景だけでもうっとり…ぼんやり見える様子に誘われ中に入るとそこは伝統の町・仁寺洞とは一線を画したコンテンポラリーな世界が広がっていました。
黒く四角い枠の中に大きな木が立ち、鳥たちが枝に止まり、蝶がひらひら…アウォンコンバンの代表的な作品でもあるキャンドルホルダーが天井から数本吊られ薄暗い空間にキャンドルが灯されていました。店の奥には砂が敷かれ大きなお皿にそこにもほのかな光…とても幻想的ですっかり魅了されたことを記憶しています。
日本の方もたくさん訪問されたとうかがっています。
韓国の民芸探訪 : 別冊太陽 日本のこころ58 平凡社
今回ご紹介にあたり、いろいろ調べていくと驚いたことがあります。
ちょうどこの頃、なんと「倚りかからず」「自分の感受性くらい」「ハングルへの旅」などの著者、詩人・茨木のり子さんが33歳のノ・イナさんの工房を訪ねられているではありませんか!
【華奢なイナさんが重いハンマーを持って何度も何度も銅板を打ち叩く姿は痛々しい眺め】【イナさんという若い女性によって古代からの金工文化が新しく生まれ変わろうとしている】と記載されていました。なんということでしょう!胸が高鳴ります。
10年経った頃、多くの工芸作家たちと親交を深めそれまではイナさんの金属作品だけのお店でしたが陶磁器やガラス・布や木工など様々な素材の作品も並ぶようになりました。末妹インジャさんもアクセサリー作家として、また他の姉妹たちも運営に加わり家族で進んでいくのです。
©아원공방
©아원공방
2006年にはクラフトアウォンというギャラリー、そして2011年からは現在の三清洞で地下1階地上3階の店舗兼ギャラリーをオープン。現在はイナさんの息子さんと娘さんが中心となり運営されています。また地方にある作業室ではイナさん、姉妹の夫や甥も参加し総勢10名のファミリーが共に働いています。
『少しのお金がたまったら家族で田舎に戻る』
初めの思いとは異なり、今ではすっかりソウルがホームとなられました。お客さまはもちろん作家・知人・ご近所の方々…そして家族。たくさんの方から愛を受けられそして注がれています。
家族の物語がつまったアウォンコンバン…
これからの姿も楽しみでなりません。
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今回うれしいことにご縁がつながることができました。
実は+hanを始める前の準備段階の頃、三清洞のギャラリーにお邪魔しご紹介させてくださいとお願いしたことがあるんです。何も動いていないのに当時は怖いもの知らずといいますか、石橋をたたくこともせず渡ってしまったようで、思い出しただけでも赤面します。もちろん結果はとほほ。
8年の時が流れ、再びお願いにあがり今回の運びとなりました。
+hanでは今後もイナさんの美しい作品を中心に大切にご紹介したいと思っています。
石畳や石壁に囲まれた伝統家屋が多く残る町に建つアウォンコンバン。安国駅から数分です。風を感じながら歩いているとガラス張りの三階建ての建物が見えてきます。渡韓の際はぜひお出かけください。
アウォンコンバン/아원공방/阿園工房
ソウル特別市鍾路区北村路5街キル3
10時〜19時
㊡月曜